公益セクターの会計基準をめぐる情報


第4回 誤りのない会計処理のために


2.誤りやすい会計処理について

(2)引当金と引当預金の関連と違い
引当特定預金と引当金

引当金とは企業会計原則に次のように規定されている。

将来の特定の費用又は損失であって、その発生が当期以前の事象に起因し、発生の可能性が高く、かつ、その金額を合理的に見積もることが出来る場合には、当期の負担に属する金額を当期の費用又は損失として引当金に繰り入れ、当該引当金の残高を貸借対照表の負債の部又は資産の部に記載するものとする。
製品保証引当金、売上割戻引当金、返品調整引当金、賞与引当金、工事補償引当金、退職給与引当金、修繕引当金、特別修繕引当金、政務保証損失引当金、損害補償損失引当金、貸倒引当金、がこれに該当する。
発生の可能性の低い偶発事象に係る費用又は損失については、引当金を計上することはできない。

引当金の種類としては、評価性の引当金、停止条件付債務、負債性の引当金がある。貸倒引当金、減価償却引当金等評価性の引当金は、負債の部ではなく資産の控除科目として表示される。


引当金は、上記の条件を満たす限り、営利企業でも公益法人でも設定されなければならないものである。典型的な引当金である退職給与引当金について考えてみる。


退職給与引当金とは、労働協約や就業規則等に基づく将来の退職金の支払いについて、営利企業では期間損益計算の適性を確保するために、公益法人では、各期における正味財産の増減を適正に把握するために、その退職金の一部を正味財産の減少(費用)としてあらかじめ配分した結果として設定される、貸方科目である。


法人は、労働協約や就業規則等により職員の提供した労働に対応する退職金の支払い義務を条件付で負っており、当期の負担に属すべき退職金の金額を当期の正味財産の減少(原因)として認識するとともに、その期末現在における累積額を、退職給与引当金として貸借対照表に明示しなければならない訳である。


この場合、各期に計上すべき繰入額を算定する基礎としては、職員の自己都合による退職金の期末要支給額の100%、期末支給額の現在価値、年金係数を利用して計算した額等がある。税法上は、期末要支給額の40%を損金導入の限度額としている。


いずれにしても、各期に計上すべき金額は法人が採用した計上方法により客観的に決定される。又、一度採用した計上方法は毎期継続して適用し、正統な理由のないかぎり、みだりに変更してはならない。


一方引当特定預金を設けることは、公益法人では広く行なわれているが、営利企業ではほとんど行なわれない。


引当金に対応する特定の資産が存在する訳ではないのである。これは利益を目的とする営利企業においては、可能な限りすべての資産を生産や販売に投入し、そこから得られる利益をもって退職金を支払う原資と考えるからである。もっとも退職金の支払額が大きく、その支払が集中することを防ぐために、適格退職年金制度等を採用することはあるが、退職金の原資を預金として固定することはしないのである。


それでは、何故、公益法人では引当特定預金が設けられるのであろうか。営利企業と異なり、公益法人は、「祭祀、宗教、慈善、学術、技芸その他公益に関する」ことを行ない「営利を目的とせざる」ものである。その事業は本質的には対価を求めないサービスである。所有する資産を利用して剰余価値を生み出すものではない。従って退職金支払の原資は各期において負担すべき額を目的を特定した預金に組み入れておく必要があるのである。


その組入れ額は、客観的に負担額が計算される引当金と対応することが原則であるが、法人毎の収支状況をも総合的に勘案して決定すべきものである。


例えば退職金の支払について、その支払時期に補助金や委託契約金額に支払額を反映させることが可能な場合、事業的性格が強く、営利企業的な運営方法が必要な場合等、引当金の金額を全額特定預金にする必要がないこともある。つまり、特定預金の組入金額は、法人のその都度の意志決定によって変更しても差しつかえがないのである。




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