物品販売業を営む法人の「期末商品たな卸額」や、消耗品の未使用分を示す「貯蔵品」は、たな卸資産と呼ばれ、通常資金の範囲から除外される。商品は販売できて資金化されるものであり、貯蔵品は翌年度以降に使用され資金化されることはないからである。しかし、商品も貯蔵品も法人の財産であり、これを貸借対照表に計上しないと法人の正味財産を正しく表示できない。もっとも消耗品のすべてについて細かくたな卸しを行なうことは、実務上困難な場合が多く、ロット単位で梱包したものだけを数えることが多い。
たな卸資産の期末計上額と前期末計上額の差は、上述のように資金の増減ではないため収支計算書には計上せず、正味財産増減計算書で扱うことになる。以下公益法人における仕訳例を考えてみる。
仕訳例7. 今期より貯蔵品のたな卸を行なうことにした。消耗品費で購入した啓蒙活動用パンフレット1,000,000円のうち当期配布用の300,000円が期末に残った。
ストック式
貯蔵品(資産) 300,000 | / | 貯蔵品増加額(資産増) 300,000 |
フロー式
貯蔵品(資産) 300,000 | / | 消耗品費(資産減少原因) 300,000 |
フロー式の仕訳を行なうと消耗品費の収支計算書計上額は1,000,000円であるのに対して、正味財産増減計算書計上額は700,000円となり不一致が発生する。収支計算書の計上額1,000,000円は当期のパンフレットの購入額を表示しており、正味財産増減計算書の計上額700,000円は当期のパンフレット配布(消耗)額を表示しているため、このような不一致が当然発生するのである。
フロー式の正味財産増減計算書に、貯蔵品たな卸高という科目を設定すれば不一致を避けることができるが、その場合の仕訳は仕訳例8のB法で説明する。
仕訳例8. 仕訳例7の法人が翌事業年度末に二回目のたな卸を行なった。パンフレットの当期追加購入額は1,500,000円であり、期末の未配布分は200,000円であった。
A法
ストック式
貯蔵品減少額(資産増) 100,000 | / | 貯蔵品(資産) 100,000 |
フロー式
消耗品費(正味減少原因) 100,000 | / | 貯蔵品(資産) 100,000 |
B法
ストック式
貯蔵品減少額(資産減) 300,000 | / | 貯蔵品(資産) 100,000 |
貯蔵品(資産) 200,000 | / | 貯蔵品増加額(資産増) 200,000 |
フロー式
期首貯蔵品棚卸高 (正味減少原因) 300,000 |
/ | 貯蔵品(資産) 300,000 |
貯蔵品(資産) 200,000 | / | 期首貯蔵品棚卸高 (正味減少原因) 200,000 |
A法は純額で表示する方法であり、B法は期首と期末を洗い替える方法である。A法のほうが簡便であるが、収益事業を行なっており、損益計算書が必要となる法人ではB法のほうが組み替えが簡単である。フロー式の場合のA法、B法それぞれによる正味財産増減計算書の表示は次のようになる。
A法
事業収入 | ||
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | ||
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | ||
事業費 | ||
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | ||
消耗品費 | 1,600,000 | |
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ |
B法
事業収入 | ||
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | ||
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | ||
事業費 | ||
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | ||
期首貯蔵品 | 300,000 | |
棚卸高 | ||
消耗品費 | 1,500,000 | |
期末貯蔵品 | ||
棚卸高 | Δ200,000 | |
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ |
A法、B法のどちらを使用しても収支計算書の消耗品費の計上額は1,600,000円である。正味財産増減計算書の計上額はこの法人が前期末のパンフレット300,000円分と、当期購入分のうち1,300,000円分を当期中に配布したことを表示している。