公益セクターの会計基準をめぐる情報


第4回 誤りのない会計処理のために


2.誤りやすい会計処理について

(2)引当金と引当預金の関連と違い
退職給与引当金と退職給与引当特定預金の取り崩し

退職給与の支払にあたって退職給与引当金を取り崩す場合、企業会計では、通常次のような仕訳が行われる。


仕訳例5.

200,000 2,200,000
2,000,000  

退職した職員の前期末の退職給与の要支給額が2,000,000円であり、200,000円は今期中の要支給額の増加という事例である。企業会計は期間損益を明らかにすることが目的である。退職した職員の退職金2,200,000円のうち2,000,000円分は退職給与引当金の繰り入れによって過年度で既に過年度費用化されており、退職金の支払によっても、資本(正味財産)の増減はもたらさないと考える。従って、今期の費用として認識すべきものは当該職員の退職金の要支給額の当期中における増加額200,000円のみでよいことになる。上記の仕訳はそのことを示している。


一方、公益法人における処理については、資金収支の観点からの分析が必要となる。改正される前の公益法人会計基準では、退職給与引当金を資金の範囲に含めており、その繰入額は収支計算書の支出の部に計上することになっていた。しかし、退職給与引当金は固定負債に計上される負債性引当金であり、実際の退職金の支払は、相当な期間を経過した将来であることが普通である。退職給与引当金繰入額を収支計算書に計上することは遠い将来の支出を当期の支出として取り扱うこととなり、不合理である。従って改正後の公益法人会計基準では、退職給与引当金を資金の範囲から除外し、退職給与引当金の繰入額を収支計算書ではなく正味財産計算書に計上することにしたのである。


上記の事例に対する公益法人基準にしたがった仕訳はストック式で一方式、フロー式について次の二つの方法がある。


A法

ストック式

退職金(支出) 2,200,000 普通預金(資金) 2,200,000
     
退職給与引当金(負債) 2,000,000 退職給与引当金繰戻し(負債減) 2,000,000

フロー式

退職金(支出) 2,200,000 普通預金(資金) 2,200,000
   
退職金(正味減) 2,200,000 普通預金(資産) 2,200,000
     
退職給与引当金(負債) 2,000,000 退職給与引当金繰戻し(正味増) 2,000,000

B法

ストック式

退職金(支出) 2,200,000 普通預金(資金) 2,200,000
     
退職給与引当金(負債) 2,000,000 退職給与引当金繰戻し(正味増) 2,000,000

フロー式

退職金(支出) 2,200,000 普通預金(資金) 2,200,000
   
退職給与引当金(負債) 2,000,000 普通預金(資産) 2,200,000
退職金(正味減) 200,000  

ストック式については資金の減少としての支出である退職金の支払と、非資金負債である退職給与引当金の減少とは切り離して考えざるをえない。一取引二仕訳ではなく、二つの別個の取引となる。一方フロー式においては、資金取引としての退職金の支払を優先させ、その額をフロー式の正味財産増減計算書の退職金の額と一致させ、退職給与引当金の繰戻しを別個の取引として認識する方法と、退職給与引当金の繰り戻しを正味財産増減計算書に計上せず、登記負担分200,000円のみを退職金として計上する方法がある。


フロー式の正味財産増減計算書の表示は、A法B法によりそれぞれ次のようになる。


A法

 
 
2,000,000
 
 
 
2,200,000
 

B法

 
 
 
 
 
 
2,200,000
 

A法・B法いずれも、退職金の支払いによる正味財産の減少額はトータルとして当期負担分200,000円となり、一致するのは当然である。


退職給与の支払いにあたって退職引当特定預金を取り崩すことは、以上述べてきた退職金の支払い及び退職給与引当金の取崩しとはまったく別個の取り引きである。(前々頁の「引当特定預金と引当金」【一取引二仕訳について】参照)




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