引当特定預金の意義は「引当特定預金と引当金」で述べたが、ここでは、収支計算書に及ぼす影響について考えてみる。問題を単純化するために固定資産を所有しない社団法人を想定し、収支計算書、正味財産増減計算書、貸借対照表が下記の状態である年度について検討する。
収支計算書 単位千円
会費収入 | 100,000 |
事業収入 | 200,000 |
当期収入 | 300,000 |
前期繰越収支差額 | 5,000 |
収入合計 | 305,000 |
事業費 | 220,000 |
管理費 | 78,000 |
当期支出 | 298,000 |
当期収支差額 | 2,000 |
次期繰越収支差額 | 7,000 |
正味財産増減計算書 単位千円
増加の部 | |
当期収支差額 | 2,000 |
減少の部 | |
退職給与引当金繰入額 | 2,000 |
当期正味財産増加額 | 0 |
前期繰越正味財産 | 0 |
次期繰越正味財産 | 0 |
貸借対照表 単位千円
資産の部 | |
現金預金 | 7,000 |
負債の部 | |
退職給与引当金 | 7,000 |
正味財産の部 | |
0 | |
この法人では、退職給与引当金は計上しているが、退職給与引当特定預金の設定は行なっていない。従って正味財産は退職給与引当金があるため0円であるのに、収支計算書の次期繰越収支差額は7,000円計上されている。このような決算を行なった場合、次の問題点が発生する。公益法人の収支均衡の原則により、次期繰越収支差額は限りなく0円に近づけるべきだとする考え方があり、次期繰越収支差額7,000円について減らすべきだと指摘を受ける可能性がある。そのような考え方にもとづいて、事業費を2,000円増加させると、次のような計算書類となる。
収支計算書 単位千円
会費収入 | 100,000 |
事業収入 | 200,000 |
当期収入 | 300,000 |
前期繰越収支差額 | 5,000 |
収入合計 | 305,000 |
事業費 | 220,000 |
管理費 | 78,000 |
当期支出 | 300,000 |
当期収支差額 | 0 |
次期繰越収支差額 | 5,000 |
正味財産増減計算書 単位千円
増加の部 | |
当期収支差額 | 0 |
減少の部 | |
退職給与引当金繰入額 | 2,000 |
当期正味財産増加額 | 2,000 |
前期繰越正味財産 | 0 |
次期繰越正味財産 | Δ2,000 |
貸借対照表 単位千円
資産の部 | |
現金預金 | 5,000 |
負債の部 | |
退職給与引当金 | 7,000 |
正味財産の部 | |
Δ2,000 |
この場合、当該法人の正味財産はΔ2,000円となり、負債の額が資産の金額を上回る債務超過の状態に陥ってしまう。民法70条には「法人がその債務を完済することを能わざるに至りたる時は……破産の宣告をなす」68条には「法人は左の事由により解散す。……(三)破産……」と規定されている。つまり解散をしなければならない状態に陥っているのである。又、財団法人の場合は上記の状態では実質的には基本財産の取崩となるので注意が必要である。
事業費を増すかわりに、退職給与引当特定預金を設定した場合の計算額は次のようになる。
収支計算書 単位千円
会費収入 | 100,000 |
事業収入 | 200,000 |
当期収入 | 300,000 |
前期繰越収支差額 | 0 |
収入合計 | 300,000 |
事業費 | 220,000 |
管理費 | 78,000 |
退職給与引当特定預金支出 | 2,000 |
当期支払 | 300,000 |
当期収支差額 | 0 |
次期繰越収支差額 | 0 |
正味財産増減計算書 単位千円
増加の部 | |
当期収支差額 | 0 |
退職給与引当預金増加額 | 2,000 |
減少の部 | |
退職給与引当金繰入額 | 2,000 |
当期正味財産増加額 | 0 |
前期繰越正味財産 | 0 |
次期繰越正味財産 | 0 |
貸借対照表 単位千円
資産の部 | |
現金預金 | 0 |
退職給与引当特定預金 | 7,000 |
負債の部 | |
退職給与引当金 | 7,000 |
正味財産の部 | |
0 |
この場合は、正味財産も、次期繰越収支差額も0円となる。つまり引当特定預金を設定することは、将来の支出の当期負担分を引当特定預金支出として当期の支出として計上することだと言えるのである。