経理処理における記録の正確性はそれが資金や財産の残高の正確性と表裏一体をなしているだけに、他の業務における正確性よりも重視されることは当然のことです。経理(総務)責任者や担当者にとって、仕訳伝票・会計帳簿・計算書類記載事項の正確性を保証することは、業務上の命ともいうべき事柄であり、その責任を果たすため日努力されていることでしょう。コンピュータシステムを利用する場合でも、かかる重要性が軽視されてよい訳はありません。
しかし、現実には、コンピュータシステムを採用した結果、その正確性が軽視され、業務処理レベルが低下する場合もみうけられます。何故この様なことが起こり得るのか、どのようにすればそれを防ぐことが出来るのかを、「ヒューマンライズ」の設計思想と対比しながら考えていくことが、この連載の目的です。
コンピュータは人類が手にした道具の中で、極めて大きな可能性を秘めたものの一つです。それを有効に利用することによって、多くの単純作業から人間を開放することが出来ます。経理処理における転記・集計作業や試算表及び計算書類作成作業の大部分をコンピュータに依存することが可能です。特に月次決算や年度決算において、修正・整理仕訳が頻繁に発生する場合、記帳・再計算・試算表修正、計算書類再作成といった手順の中で、必要となる手間のほとんどをコンピュータシステムに行わせることが可能であり、人間はその正確性を確保することに全力をあげることが出来ます。
つまり、基礎データを修正することによって関連する記録・集計のすべてをコンピュータが自動的に行なってくれる訳です。従ってデータの修正がなるべく簡単に行なえる方がコンピュータシステムとしてはすぐれているという見解が生まれてくる訳です。一見、当然と思えるこの見解については、しかし、経理業務としては再検討が必要となります。
すべての物事には2面性があります。物理上の記憶媒体(フロッピーディスク・ハードディスク等)上の記録を簡単に修正・削除し得るというコンピュータの長所が、経理業務上との関連との中で、欠点としてあらわれてくるのです。この事を考える上でポイントとなるのが、データの安定性ということです。
手書きの帳簿において記帳に鉛筆を使用しないのは、その記録が簡単に修正されては困るからです。特に内部の決裁制度を重視する公益法人において、すでに決裁を受けて記帳されたものが簡単に記帳されては、予算管理すら行なえなくなります。簿記の原則では記帳ミスは2本線で抹消した上で訂正印を押すこと、仕訳ミスは逆仕訳で訂正することになっています。これは間違いは間違いとしてその修正の過程をも記録にとどめることにより、他の記録の正確性を保証しようとするものです。
コンピュータを利用した会計処理においても、このデータの安定性を軽視して良いはずがありません。「ヒューマンライズ」において、最初のメニューが「日常処理業務」と「管理者承認」にわけてあるのは、上記のデータの安定性を重視する観点からのものです。その日入力した以外のデータの修正は、パスワードチェック後はじめて操作できる「管理者承認プログラム」でのみ行なうことが可能であり、又、そのプログラム終了時点でどのような作業を行なったのかのリストが出力されるようになっているため、管理者はパスワードの入力と最終出力をチェックすることにより、修正作業の内容を管理することが出来る訳です。
ところで、「ヒューマンライズ」においても、その日のデータは、担当者が修正できるようにしてあるのはなぜでしょうか。そのことを考えるためには、「記載ミス」と「パンチ(入力)ミス」を分けて考えることが必要となります。