企業会計における、貸借対照表等式にもとづく貸借平均記入のルールは、以下の通りです。 (5)資本等式と貸借対照表等式で述べたように、企業が所有する様々な価値の内容は、刻々と変化していきます。それらの変化、つまり取引はいくつかの形態に分類されます。
自己資本が変化する取引のうち<取引例-3>を損益取引といい、<取引例-4>を資本取引と言います。出資者や株主の持分を確定し、処分可能利益を計算するためには、両者を厳密に区別すべきだとされます。
<取引例-1><取引例-2>については、そのような名称はありません。資本取引と損益取引について勉強した時、<取引例-1>や<取引例-2>を思い浮かべて、本来どちらでもないそれらが、どちらに属するかという迷路に踏み込んで、かなりの時間を無駄にした思い出があります。
いずれにしても、価値=資本という等式が常に成り立つことは、明らかです。とすれば、企業会計における貸借平均記入のルールは、この等式が常に成り立つように工夫すればよいことになります。貸借対照表は次のように作成されます。
簿記では左を借方と呼び、右を貸方と呼びますので、資産の増加を借方に、減少を貸方に記入すれば、借方と貸方の発生額の差額としての残高は、借方に残ることになります。備品を初めて購入(増加)した時、借方に書けば、総勘定元帳の備品という勘定の残は借方に残るからです。負債および資本はその逆になります。
それでは損益科目はどのように書けば良いのでしょうか。試算表では資本の部は資本取引以外では固定されています。当期における資本取引以外のつまり、企業活動そのものの結果としての自己資本の増減は、総勘定元帳にいちいち記入するのではなく、損益勘定又は損益計算書の結果によって示されることになります。
つまり一方的に資産又は負債が増減するような場合、自己資本の増減として記録するのではなく、その増減原因を示す勘定科目で記載することによって企業活動による自己資本の増減を結果的に記録していくのです。従って、資産の一方的な増加や負債の一方的な減少による自己資本の増加原因は、 利益(収益)として貸借平均記入のルールとして貸方に記入されます。
なぜなら、資産の増加と負債の減少は、借方に記載されるからであり、利益の発生による自己資本の増加は貸方に記載されるからです。 逆に資本の一方的減少や負債の一方的増加による自己資本の減少原因は、損失(費用)として借方に記載されることになります。
これらの記入のルールをまとめたものが、前号に記載した簿記の八要素です。八要素がこのように決まっている理由は、まとめると次のようになります。
企業の運用する価値の総体は、常に変化しているが、それを資本と常に等しいという観点で捉える。価値の側面は資産として分類し、資本については、他人資本である負債と自己資本である資本に分類する。自己資本についての資本取引を除く増減要因を、自己資本を増加させるものとしての利益(収益)と、減少させるものとしての損失(費用)に分類する。貸借対照表の残高記載のルールに基づき資産の増加を借方、減少を貸方、負債と資本取引による自己資本の増加を貸方、減少を借方に記載する。損益取引による自己資本の増加原因を示す利益(収益)の発生は貸方、自己資本の減少原因を示す損失(費用)の発生は借方に記載する。
その結果、企業会計における貸借平均記入のルールが、矛盾なく保たれるのである。簿記の八要素を暗記してから会計理論を考えるのではなく、会計の目的と会計が果たしている役割についての会計理論から、簿記の八要素の意味を考えて欲しいというのが、この章の言いたいことです。
以上、技術としての複式簿記の本質と、企業会計における貸借平均記入のルールについて述べてきました。
企業会計とそれにもとづく簿記について解説することが目的ではないので、具体例についてはほとんどあげていません。 ただ、いままで教科書なり、実務なりで経験されてきたことを、ここで申し上げてきたことによって再点検していただければ、 新しい発見があるかもしれません。