公益セクターの会計基準をめぐる情報


第1回 公益法人会計基準の本質


1.複式簿記の本質

(4)複式簿記の本質
技術としての複式簿記の本質

技術としての複式簿記は、何らかの企業体の具体的な業種業態に結びついて現れてきます。一つとして同じ物はありません。しかし、それらから具体的な内容を捨象し、本質だけを取り出したとき、残ってくるものは次の三つです。


「(一)両面観察にもとづく記録と計算を行うこと
(二)貸借平均記入を行うこと
(三)最終的な計算結果が貸借平均の形で示される事によって自己検証を行う事が可能性とせられること」

※「」引用


両面観察とは

両面観察とは、仕訳において常に、二つの側面で取引を捉えるという事です。原因と結果という説明をしている教科書もあります。


(原因)給料を支払ったことにより(結果)普通預金が減少したという捉えかたを常に行い、記録していく訳です。(原因)商品を仕入れたため、(結果)買掛金が債務として増加した。(原因)利息を受け取ったため、(結果)普通預金が増加したという具合です。一つの変化を二つの側面で捉えるため、金額は両方とも当然同じになります。


原因と結果としては説明できない取引もあります。普通預金から現金をおろしたとき、 どちらが原因でどちらが結果かははっきりしません。どちらも原因であり、どちらも結果です。短期の借入れを行ったため、普通預金に入金があったとき、常識的には借入れを原因と考え、普通預金の増加を結果として考えますが、会計では利息を受け取った時とは違ったものとして考えます。このことは後で触れます。


いずれにしても、取引を常に二つの面から観察し、仕訳を行います。そして、それぞれの側面について、債務なら債務のために、現預金なら現預金のために、設けられた場所に記録を行っていくのです。


貸借平均記入とは

貸借平均記入とは、勘定科目の性格毎に、その増減を右に書くか左に書くかが決まっているという事です。複式簿記では先ほどの記録する場所の事を「勘定」といい、それぞれに二つの欄が用意されています。左側を借方、右側を貸方と呼びます。

「経営体の個々の活動について両面観察が行われると、」
「「会計事実」の数は、当然の事として、複数である。この複数の会計事実は、また両面観察の結果として、当然、2種のグループに分類することが出来る。さらにこの2群の会計事実の数値すなわち金額を、各群毎に計算するならば、かならず同額となるから、これらの会計事実を総勘定元帳の勘定に記入するに際し、群別に応じて借方、貸方への記入を逆になるように配慮すれば、借方記入額と貸方記入額との一致を期する事ができる。このような配慮のもとの行われる勘定記入様式が「貸借平均記入」である。」

つまり、勘定科目毎にいくつかのものに分類し、それぞれに増減の記入のルールが逆になるように一定の理論をもとに定めておき、それを守れば、元々ひとつひとつ仕訳の金額は貸借同額であるから、借方合計額と貸方合計額及びその残高は、必ず一致することをいっているのです。


自己検証とは

自己検証とは、計算結果の正否を、自身の力によって証明する能力が、複式簿記の中に機能として内蔵されているということです。両面観察と貸借平均記入のルールを守れば、その結果として作成される試算表の貸借は、当然一致します。もし一致しなければ、記録又は計算のどこかが間違っているとわかる訳です。


勿論、仕訳を転記もれしても貸借は一致しますが、合計残高試算表を作成し、仕訳帳の合計と比較すれば、それも発見できます。 また、貸借を逆に書いても貸借は一致しますが、勘定毎の残高の妥当性を検証すれば、その間違いも多くの場合、発見できます。


この自己検証能力は、とても重要な事だと思います。前にも述べたように、年商数百万の個人商店でも、年商数兆円のコングロマリットでも、簿記としての手法は同じであり、同じ手法を用いて、記録と計算の当否を判定できるからです。これほど抽象度の高い、社会的技術はありません。国民総生産や、国民所得を把握するときの技術にも応用されています。


まとめ

抽象的な複式簿記の本質について述べてきましたが、そこには内容はありません。技術的な本質があるだけです。しかし、様々な分野に適用される簿記の技術的本質を踏まえておく事は、何故、銀行簿記が、貸借逆でも成立するかを説明するためにも必要なことです。


また、企業会計と公益法人会計、学校法人会計、社会福祉法人会計、NPO会計などとの違いを、つまり収支計算書を複式簿記で作成する事を考える上でも重要な事だと思います。 次に、まず、企業会計について、両面観察をどのような勘定科目で行い、貸借平均記入のルールがどうなっているのかをみていきます。




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