公益セクターの会計基準をめぐる情報


第1回 公益法人会計基準の本質


1.複式簿記の本質

(2)取引とは変化である
仕訳とは

簿記の対象になるものは、取引です。取引とは、当該企業体に起きる様々な変化のうち、金額で測定できるものです。簿記の八要素にも、増加・減少・発生という言葉がついています。


たとえば銀行の普通預金から現金をおろしたときの仕訳は、(借方)現金/(貸方)普通預金となりますが、この場合の現金は、おろしてきた現金そのものを指しているのではなく、手元の現金が増えたことを示しています。貸方の普通預金もその金額だけ減少した事を示しています。


各年度の簿記は、期首の貸借対照表から始めますが、それ自体が、企業体が活動を始めたときから期首までの変化の累積です。たとえば株式会社の場合、資本金が銀行の別段預金に入金になったときから始まり、登記の手数料を支払ったり、事務所の家賃を支払ったり、商品を仕入れたり、給料を支払ったり、売上が発生したり、様々な変化が繰り返され、 その結果として、様々な資産や負債や資本が残ってくるのです。それが企業体の期首の貸借対照表の中身を構成しているのです。


仕訳とはそのような変化としての取引を分析し、適切な勘定科目を当てはめていく作業です。仕訳帳(会計伝票)は取引の時系列の記録です。総勘定元帳はそれぞれの勘定科目毎の時系列の記録であり、累積結果を計算するためのものです。


取引とは変化である

簿記では貨幣で表示出来ないものは扱いません。優秀な新入社員が入社しても、それだけでは仕訳の対象とはなりません。入社手続きは総務又は人事の仕事で、経理の仕事ではありません。交通費を支給したり、給与を支払ったとき、初めて仕訳の対象となるわけです。


簿記が変化を扱っているという事は、当たり前のように思われるかもしれませんが、企業会計がどのような計算構造を持っているのかを考える上でも、公益法人等で作成される収支計算書の仕訳の構造はどういうものかを考える上でも、取引とは変化である、仕訳とは変化を記録しているという事の認識は、重要なものですから、押さえておいて下さい。



(3)一冊の本

簿記の勉強が面白くない事は、先に述べましたが、公認会計士の受験勉強の中で、出会った一冊の本があります。二次試験の試験委員をされていた、神戸大学教授(当時)の戸田義郎先生の「簿記新論」という本です。


どんな分野でも、一冊の本によって、その分野の様々な問題が、はらっと解ける事があります。全体構造が見える、或いは本質が明らかになり、様々な問題を有機的な関連の中で考える事が出来るようになるからだと思います。 簿記の分野において、私にとって「簿記新論」は、まさにそのようなものでした。いまではすでに絶版になっているようで入手が困難ですし、会計理論のその後の発展の中でそのままでは使えなくなっている箇所もあるのですが、簿記というものを捉えるときの基本的な考え方は、今でも参考になります。


簿記の教科書が教育的配慮で、会計理論を簡略化するあまり、かえって簿記を解りにくくしている。簿記の試験問題の解答は、従来の簿記の問題集のように一つとは限らず、常に会計学の裏付けを持って考えないといけないという主張です。三級や二級の簿記の問題集は、入門編という事もあり、確かに一つの問題に対して一つの正解しか認めておらず、簿記は暗記学科だという印象を与えています。その事も簿記は面白くないと思ってしまう原因の一つです。


「簿記新論」を読んだ事によって、それまで、自分の中でバラバラになっていた、簿記と財務諸表論が結びつき、一体のものとして勉強できるようになった事は、とても有り難い事でした。以下は、私が「簿記新論」から、学び取ったものと、それ以降の経験の中から得たものを、まとめたものです。学術論文ではありませんので、私見とそうでない部分を厳密には分けていませんが、直接引用した部分は「」で囲んでいます。



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