公益セクターの会計基準をめぐる情報


第4回 誤りのない会計処理のために


2.誤りやすい会計処理について

(4)公益法人と剰余金及び剰余金処分について
収支計算書と剰余金処分

例2の次の文章に注意してもらいたい。「…その一部又は全部を翌年度の収入に繰り入れることができる…」改正前の公益法人会計基準における剰余金は、正味財産から基本金を控除したものであった。剰余金をこのように解釈すれば企業会計と同じく、その裏付けとなる資産はどのような形で保持されているかは特定できない。建物等固定資産として保持されている金額も含まれているのである。


そうだとすれば上記のように「翌年度の収入に繰り入れる」という規程は実施不能である。建物を売却して翌期の事業費に充当するようなことはほとんどあり得ないからである。この規程は、収支計算書における次期繰越収支差額と剰余金を混同している。


支出予算の末消化や収入予算をオーバーする収入の発生による次期繰越収支差額の発生は資金の残高として残るものであり、これを翌期に繰り越して翌期の支出に充当することには妥当性がある。


しかし、次期繰越収支差額は剰余金の一部にすぎずこれを剰余金すべての処分として規定することは出来ないのである。資金のみの増減を扱う収支計算書と、資金だけではなく、資産負債全体の増減を扱う正味財産増減計算書とを混同してはならないのである。


剰余金処分と似て非なるものに特定預金の設定がある。期末において発生した次期繰越収支差額を一定の目的のために特定預金として積み立てることである。基本財産運用収入や会費収入だけでは運用できない法人において、その法人の事業を継続させるためには、様々な事態に備えるために一定の資金を特定預金として確保しておくことは必要である。


しかし、その場合であっても決算で確定した次期繰越収支差額を決算理事会や社員総会において特定預金に積立てるのではない。あらかじめ特定預金支出の金額を予算化し、その範囲以内において、事業年度内に特定預金としなければならない。年度末には特定預金として明確に区分しておかなければならないのである。


企業のように年度末に確定した決算の利益をもとに、実際には翌期に入ってから行なわれる取締役会で利益処分を行なうようなことは公益法人には認められていない。すべての収支は事前に(当該年度開始以前に)予算化されており、その予算の範囲内においてのみ理事に執行の権限が与えられているのであり、その執行は当該年度中に行なわなければならないのである。




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