企業と比較して、公益法人の本質は公益に資することを目的とし、営利を追求しないことにある。基本財産の運用収入や社員からの会費を原資として行なう公益を目的とした無償サービスの提供が目的である。そこからは剰余が発生することは予定されていない。収支予算書において収支均衡が求められるのである。
従って、剰余金処分という考え方は本来あり得ない。もっとも日本における公益法人の現実的なあり方からすると、基本財産の運用収入や社員からの会費が収入の大半を占めるような例はむしろ少数である。行政サービスの一部を受託するにせよ、独自の事業を行なうにしろ、一定の内部保留を行なわなければ法人の運営に支障をきたすような場合の方が多い。企業会計でいう剰余金に当たるものの発生もやむを得ないのである。
しかし、その場合であっても、剰余金は正味財産の一部として翌期にそのまま繰り越すしかなく、準備金や積立金に積み立てることをしてはならない。何故なら、「企業会計における剰余金について」でも述べたように企業における別途積立金等の積立は、利益のうち配当や役員賞与という社外流出を前提としており、その可能額を明確にするため、逆に内部保留に充てる金額を計算するという作業だからである。積立を行なったからといって具体的な資産を固定するものではなく、単に計算上それだけのものが企業の運用資産の中に留保されていることを示しているにすぎない。
公益法人においては、剰余金を原資とした配当や役員賞与等の社外流出は絶対にあり得ずそのような計算は全く無意味である。公益法人会計基準における正味財産増減計算書において、企業会計でいう増資等の資本取引をも正味財産の増加額として扱うのは、公益法人においては配当を行なうことはなく、企業における「タコ配」(資本金からの配当)を防ぐための計算構造が不必要だからである。貸借対照表上も、法人の自己資本の総額である正味財産の総額を示すだけでよいのである。
以上述べたように公益法人において剰余金計算書は全く必要ないものであるが、税法上の収益事業に該当する事業を行なっている法人にあっては、法人税申告書の添付書類として剰余金処分計算書が求められる。申告書の別表5に利益処分額を記載する必要があるのである。
しかし、それは法人税申告書を作成するための技術的な書類であり、例1に示したように、当期の剰余金をそのまま翌期に繰り越すものを作成すればよく、またそれ以外には作成のしようがないものである。