公益セクターの会計基準をめぐる情報


第1回 公益法人会計基準の本質


2.企業と公益法人

(2)企業と利益
企業の目標

「市場原理により、社会全体から見てより効率的な投資が、生産に対して行われる」 というのが前節の主旨です。市場原理の危うさという問題は後でふれますので、ここでは市場原理の中における企業の行動について考えます。


企業は社会の中で、消費財や生産財の生産活動を担っています(サービス提供も含む)。同時に市場の中で常に競争にさらされています。人々にとって魅力のない、また必要のない財貨やサービスは売れず、そのような製品しか生産できない、販売できない企業は、消滅していきます。


企業が消滅すれば、そこで働く人たちの収入の源が失われ、生活の基礎が奪われます。社会全体としては新たな企業が現れ、余剰人口を吸収していくのですが、社員にとっても経営者にとっても、個々人にとっては、大変な問題です。従って、企業は常に他の企業の動向に注意を払い、自らの創意工夫によって新たな財貨やサービスを生み出す努力を続けていかなければなりません。その努力の結果を評価するものさしが、現在では「利益」しかないのです。従って企業の本質的な目標が利益の獲得になるのです。


レパレッジド効果

ところで、企業にとって利益を出すために、資金(資本)を集めることがどうして 必要なのでしょうか。社員や経営者が一生懸命働けば、利益は確保できるのではないのでしょうか。簡単な例で、企業が資金(資本)を集めようとする理由を説明します。レパレッジド効果と呼ばれるものです。


今、ある企業が市場ではまだ誰も気づいていない素晴らしい商品を発見したとします。1個百万円で購入できるその商品が、市場では二百万円で飛ぶように販売できるとします。その企業が手持ちの一億円で購入できるのは百個です。すぐに売れれば利益は単純に言うと一億円です。


もし、この企業が一億円を銀行から借り入れることが出来れば、二百個の商品を購入することが出来、利益は二億円から利息を引いたものとなります。


もし、増資等で、株主から、さらに一億円の投資を得ることが出来れば、 三百個の商品を購入することが出来、利益は三億円から利息を引いたものとなり、配当を支払っても、企業に残る資金(資本)は、手元資金だけで購入した場合に比べて3倍に近いものとなります。商業におけるレパレッジド効果です。


購入するのではなく、自らそのような商品を生産しようとすれば、設備投資や研究開発に、より巨大な資金(資本)が必要となります。他の企業にさきがけ、より安く、高性能の商品を提供し続けなければ利益があがらず、市場で生き残れない製造業の企業にとっても、巨額な資金(資本)は必要不可欠なものなのです。


利益追求の社会的背景

商業にせよ製造業にせよ、企業にとって利益を出すためには資金(資本)が必要であり、資金(資本)を集めるためには利益を出すことが必要となります。このような状況のなかで、個々の企業からすると、まず、利益を獲得できるアイデアと行動を考えなければなりません。より多くの利益をあげることが出来て、はじめて、より多くの資金を集めることも可能になるからです。


企業が大きな社会的存在となり、利益追求のみでよいのかという議論はあっても、市場原理の中では、企業は利益獲得を第一目標 として行動せざるを得ないのです。繰り返しになりますが、これが、企業の本質は利益追及だということの社会的背景です。




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