公益セクターの会計基準をめぐる情報


第1回 公益法人会計基準の本質


2.企業と公益法人

(1)企業と市場原理
市場原理の考え方

家庭の経済状態が良くなると、貯金だけではなく、株式を購入する人も出てきます。 この場合は、自分で判断するにせよ、投資顧問に相談するにせよ、どの企業に投資するかを直接に選択することになります。直接金融と呼ばれる所以です。この場合も、社会全体から見れば、家庭で消費に使用されなかった資金が、生産活動に投資されることになります。生産で得た利益の一部を、この場合は配当という形で還元することにより、より多くの資金を生産のために集めるわけです。


株主になれば、決算期ごとの利益の中から、企業が支払う配当を得ることが出来ます。その企業の利益獲得能力が大きければ、より高い配当を期待できます。株式市場が整備されていれば、お金が必要になったときには、企業と直接交渉しなくても、ほかの人に株を売って、資金を回収することも出来ます。株価の値上がりによる所得も期待できます。転換社債や、新株引受権つき社債に投資することも出来ます。


一方、その企業の利益獲得能力が低ければ、配当も少ないでしょうし、株価が値下がりする ことによる損失が発生するかもしれません。企業の倒産によって、株式が無価値になったり、社債が償還されないという事態が起きるかもしれません。


これらのリスクやリターンを考慮した、個々人の投資行動が、全体としてより適切 な資金配分をもたらし、効率的な生産活動を実現していくのだというのが、市場原理の考え方です。


日本の社会の問題点

日本の場合、直接金融の市場が未成熟だと言われます。銀行を中心とする、企業同志での株式の持合が原因のように言われますが、私は、むしろ、間接金融における前ページで述べたような行政のコントロールの結果だと考えます。


規制と通達を通して行われるコントロールが、企業利益の額にまで影響をおよぼす現実がある時、企業としては、より透明性を求める一般投資家から資金を集めるより、事情を暗黙のうちに理解してくれる安定株主をなるべく増やしたいと思うのは、当然のことです。そして、ひたすら行政の方向性をさぐり、より速い情報獲得のための人的関係を作ることに専念する。リクルート事件以降、次々に発覚するスキャンダルの背景とは、そういうものであったと思います。


証券会社の営業活動にしても、企業の財務諸表の分析や、消費者の行動の分析からの投資決定を勧めるより、インサイダー情報をいかに合法的(非合法的?)に得るかという努力に力点があったように思ったのは私だけでしょうか。


情報公開の必要性

ビッグバンといい、行政改革の大合唱といい、従来の日本のあり方が行き詰まったことのあらわれです。規制の多い日本の金融市場から資金が逃げ出し、このままでは、金融センターの機能が無くなってしまう。公共事業依存型の産業構造では、財政の破綻を招いてしまう。個々の企業の努力だけではどうしようもない力が、企業の収益に悪影響を及ぼす。これらの事実が、政治、行政、産業界全体に否応ない対応を迫っているのです。


市場原理をゆがめるような規制を緩和することは不可欠ですが、同時に 情報公開を徹底することにより、個々人の自主性を保証することがなければ、本来の市場原理が働くことはありえません。ここでも情報公開が重要なのです。




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