公益セクターの会計基準をめぐる情報


第4回 誤りのない会計処理のために


2.誤りやすい会計処理について

(1)入力時のメッセージの意味と対処方法(ストック式)


一方、公益法人におけるすべての財産(消極的財産も含む。つまり資産、負債のすべて)を計上する貸借対照表を帳簿から作成しようとすると「おかね」以外の財産の動きもすべて記帳する必要が生じます。


例えば固定資産である備品を購入した場合「おかね」だけで考えれば、備品の購入を原因としてその購入金額だけ「おかね」が減少するため、
  備品購入支出(支出)/普通預金(資金)
という仕訳になります。


収支計算書としてはこれだけで充分なのですが、財産(資産)としての備品が購入によって増加したことを記帳し、貸借対照表に計上するためには、
  備品(資産)/備品増加額(資産の増加)
という仕訳を追加する必要があります。一取引二仕訳といわれる仕訳です。


では、旅費交通費を支払った場合は、どうなるでしょうか。「おかね」として考えれば、旅費交通費という原因による支払いにより「おかね」が減少するため
  旅費交通費(支出)/普通預金(資金)
という仕訳になります。収支計算書としてはこれで充分であり、「おかね」以外の資産、負債の増減がないためこれ以上の仕訳の追加は必要ないように思われます。一般的には、これ以上の仕訳は必要ない、つまり、これらの取引では一取引二仕訳は発生しないと言われています。


しかし、厳密に考えると、この取引が一取引二仕訳にならないのは、ストック式の独特な技術的構造によるものであり、仕訳概念で考えると一取引二仕訳は発生しているのです。なぜなら「おかね」は資金であると同時に、財産(資産)に他ならないからです。


この場合、資産としての普通預金の増減は、他の「おかね」の動きと合計されて「当期収支差額」として、資産の増加又は減少の部に表示されています。つまり仕訳のもとになる概念で考えれば
  当期収支差額(資産の増加)/普通預金(資産)
という仕訳が発生しているのです。ストック式の計算書類の体系の中では、この「当期収支差額」を、収支計算書より導かれる数字として年間トータルで表示することにより、個々の仕訳を省略しているだけなのです。


まとめて言えば、公益法人会計基準では、各取引を「資金・収入・支出」という概念と「資産・負債・正味財産・正味財産の増加・正味財産の減少」という概念の二つの異なった概念のグループで分析しており、その結果、一つの取引について、それぞれの概念グループによる仕訳がそれぞれ一つずつ発生する場合があるということになります。一取引二仕訳とは、一つの取引を二つの方向から分析(仕訳)するために発生するのです。


以上が、公益法人会計基準を企業会計より複雑にしている理由です。特にストック式では、これら二つの概念グループを技術的に一つの試算表にまとめて表示するという構造になっているため、「収入」「支出」「資金」のつながりを無視した仕訳を行なえば、計算書類が相互に矛盾をきたすおそれがあります。次に述べる具体的なメッセージはそのような矛盾を防ぐためにシステムの中に組み込まれたものです。




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