公益セクターの会計基準をめぐる情報


第4回 誤りのない会計処理のために


1.「ヒューマンライズ」におけるデータチェックの方法

(3)入力終了時点でのチェック方法
現金預金残高チェック

前頁「チェック用画面」で述べたように現金・預金残高チェック画面では、入力済みのすべての仕訳が反映された勘定科目ごとに(口座ごとに)表示されます。この数字と帳簿または通帳の残高とを比較することによって仕訳入力の正確性が確認できるのは、簿記の技術的本質と公益法人の特質によるものです。


複式簿記の本質のひとつとして画面観察があげられます。これは、法人における取引(経済的変化)を「原因と結果」として把握するものです。たとえば会費収入として100万円の入金が普通預金にあったとします。この場合の仕訳

普通預金100万円/会費収入100万円

は、普通預金という資産(資金)が100万円増加したのは会費収入という正味財産増加原因(収入)によるものであるということを示しています。このような分析(画面観察)をすべての取引についておこない、それぞれの勘定科目ごとに記録していくのが複式簿記の基本的な流れです。この場合一つの変化を「原因および結果」として把握しているのですから借方貸方の金額は当然一致することになります。


一方各口座ごとの残高はそれぞれの変化の累積として現れます。決算手続きにおける一連の作業の中で資産負債について各勘定科目残高の妥当性を外部資料や補助簿によって確かめることから始めるのは「原因と結果」の、「結果」についての変化の累積としての残高の正確性が確認できれば、試算表の貸借が一致している限り「原因」に関する帳簿もほぼ正確であるとみなすことができるからです。


現金・預金残高チェック画面は、簿記のこのような本質を利用し現預金の残高をチェックすることによって各取引の仕訳の正確性および入力の正確性をチェックしようとするものです。この方法は残高が累積の結果であるという性格によって効果を発揮しています。


つまり入力ミス、記帳ミスが複数存在するときそのミスの結果発生する誤差が相殺されて残高が正しい残高と偶然一致する確率は取引金額の多様性から考えて極めて低いと考えられるからです。つまり、取引の金額が多様であり取引の数が多いいほど、残高の正確性が収入支出の各仕訳の正確性をより保証するとも言えるわけです。


また口座を間違えて入力すれば、双方の口座で同一金額の誤差がプラス・マイナス逆にあらわれることから、間違った仕訳をさがすための範囲を狭めることができます。


たとえば残高が不一致となっている二つの口座がある場合、一方が、月間千取引発生しており、他方が、月間十取引だとすると、十取引の口座について調べるほうがより速くミスを発見することができます。また不一致の金額と同じ金額の仕訳がないかどうか今日入力した伝票について調べるのもミス発見を速く行なうための一つの方法です。


現金・預金残高チェックが公益法人において効果的であることは、公益法人の特質とも関係しています。より多くの利益の獲得を目的とする企業とは異なり公益活動を目的とする公益法人においては、その事業を確実に行なうために資金の裏付けを持った収支予算書にもとづく活動が義務づけられています。


つまり企業が利益の獲得による拡大再生産によりその永続性をはかろうとするのにたいして、公益法人においては基本財産の果実または会員よりの会費収入という定められた財源の範囲内で確実に事業を行なうことによってその活動の永続性を保証することを建前としているわけです。


そのため公益法人においては、収支取引を中心に仕訳を行なうことが普通であり、とりわけ現預金取引が仕訳の大半を占めることが通例です。したがって現預金残高の正確性をチェックすることは、公益法人における仕訳およびその入力の正確性の大半を確認することになるわけです。


『ヒューマンライズ』のチェック画面において現金・預金残高チェックを取り入れているのは以上の理由にもとづくものです。




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