コラム


第2回 プログラマー残酷物語


1.ただの箱

(3) 水槽の「ぬめり」

同じようなことが、金魚や熱帯魚の水槽にもあります。


満喜の前身は、私の両親が行なっていた美容業を主たる目的としていました。その店舗で40年位前、当時流行しはじめていた熱帯魚を店の客用に飼っていたことがあります。当時は、グッピー、エンジェルフィッシュ、ソードテールなど種類も限られており、器具も機能が低く、ヒーターの故障や誤作動で一夜にして魚が全滅する(ゆでたり凍死させたり)も何回かあり、結局止めてしまいました。


その頃と比べると今は、器具の性能が飛躍的によくなっており、水温の安定やろ過のための能力も高く、手間は余りかかりません。又、魚などの種類も多く、茶色い藻類を食べるオトキンクルス、食べ残しを削り取るようにたいらげるプレコやコリドラス、苔を食べる石巻貝や小型の淡水エビ、さらにはイールを食べるカエルまでいて、流木や水草と組み合わせると60cmの小さな水槽の中でもかなり複雑な生態系を作ることが出来ます。


一年の寿命しかないカラシン類などの死骸もプレコ、エビ、カエルなどが食べてくれるため、後始末のために手を入れて魚をおびえさせることも減っています。何よりも複雑な生態系が、相互に補いあって水質の悪化を遅らせてくれることは有り難いことです。


そんな水槽を掃除する時、ガラス面や底砂エアレーションのパイプなどについている「ぬめり」をとってはいけないのです。きれいで透明な水というだけでは、魚にとって良い水とは言えないということです。閉じられているとはいえ、水槽の中にも一つの生態系が形づくられており、「ぬめり」に含まれるバクテリアも一つの要素として重要な役割を果たしています。「ぬめり」の無い、無色透明の水は熱帯魚を鑑賞する側からは、きれいに見えて、理想的な水のように思えるのですが、死んだ水であり、生き物が棲むことができないものだったのです。


きれいな水しか入っていなければ水槽ではなくただのガラスの箱です。水の入れ替えは、閉じ込められた世界である、水槽の中では処理しきれない、老廃物の一部を水槽の外へ取り出す行為であり、そのことによって生態系を破壊しない配慮が重要であると知りました。



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