コラム


第3回 インターネットの光と影


2.パソコン通信と井戸ばた会議

(1) パソコン通信とは

インターネットと似て非なるものにパソコン通信があります。パソコン通信はインターネットと違って閉じられた世界です。一つの業者が大型のコンピュータのネットワークを提供して、その範囲の中で情報がやりとりされます。人々は自分の住まいの一番近い窓口に電話をかけ、このネットワークに参加(アクセス)します。


パソコン通信で用意されている情報伝達手段は、手紙のやりとり(電子メール)、会議室、掲示板です。パソコン通信に参加すると、一人一人に私書箱が与えられます。手紙のやりとりは、この私書箱同士で行われます。情報を発信し、相手の私書箱へ届ければ(アップロード)、すぐに相手側は私書箱から取り出す(ダウンロード)ことができます。郵便のように時間がかからないこと、一つの文章を同時に複数の私書箱へ送れる点などが、非常に便利な点です。


掲示板はパソコン通信の運営主体が作るものと、お金を払って参加者が自分用に作るものとがあります。掲示板にはその持ち主だけが書き込む(アップロード)ことができ、他の人はそれを読んだり、コピーする(ダウンロード)ことができるだけです。


おもしろいのは会議室です。ここへは参加者がそれぞれの意見を書き込むことができ、他の参加者はそれを読みながら、リアルタイムに自分の意見を書き込むことができます。公開された会議室でのやりとりを見ていると、私は、江戸時代の裏長屋の、井戸ばた会議を思いうかべます。それぞれが相手の言うことには全くおかまいなしに、勝手に自分の意見を、口から泡をとばしてしゃべっているだけです。皆が、自分の数文字を、なんとか会議室に書き込もうとして、いや書き込めたということだけに満足する目的で、感嘆詞や記号などを、なんの脈絡もなく、送ってきています。


床屋談義などは、その場では話された内容に、皆がなんとなく納得していても、あとから考えると、結局内容がほとんどなかったことに気づくのですが、ここでは、会話そのものが成立していないのです。何故このような会議室に参加する人がいるのだろうかと思ってしまいますが、それはそれで、楽しみを感じる人もいるのでしょう。ただ、そのような楽しみが、噂話や、中傷と結びついたときには、魔女狩りや、現代版村八分になるおそれは十分にあります。



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