コラム


第1回 行政改革と公益法人


4.美しさについて


(5) 行政や公益とは

行政とは、あるいは公益とは、生産や販売のように効率だけを追い求めるのではなく、効率性から見たときには無駄や贅沢に見える物を、本来的に、含んでいるのだと思います。むしろ、明治以降現在までの日本の行政が、産業育成の効率を中心に多くの物事を考えていた事が、行政改革の議論を複雑にさせているのではないでしょうか。


利益の追求を目的とし、物質的な豊かさを追求する企業と同じ観点で考えながら、日本全体を考えているから公正であり純粋だと思っていたのではないでしょうか。そうだとすれば、行政が行っていた事の多くは、民営化するべきだという事になってしまいます。勿論、官僚や職員の為の無駄や贅沢は論外ですが、次のような事を、行政や公益法人が行う事は無駄であり、贅沢な事でしょうか。

H・C・二コルさんが、「日本は資源が無い国だとよくいわれるが、そんなことは絶対にないです。こんなに豊かで美しい水資源を持った国は他にはないです。」と語っているのを聞いた事があります。


熊本の漁師が、きれいな海を取り戻すために、そそぎ込む川の源流のある山で植林をしていることが、報道された事があります。そんなことを個人でやらなければならない国って、本当に、貧しい国ではないのでしょうか。仙台から山形へ向かう仙山線で、素晴らしい紅葉の中に、不釣り合いな杉林が大きな顔をしているのに、腹を立てたのを覚えています。


建築資材としての材木の森や林ではなく、保水力や様々な動物の住みかとしての森や林を守るため、砂防ダムや護岸工事の予算の一部をまわす事。その林や森に、安いキャンプ場を作る事。


コンクリートでかためられた川岸を、小動物や野鳥が住める環境のある公園に変えるための予算をつける事。神社や仏閣や廃校になった学校を核にそのまわりに公園を作る事。


寝たきりの老人の介護者が、海外旅行へいくために、預かってくれるショートステイ施設を作る事。


車椅子用の観客席を作る劇場や映画館にはその費用の全額を補助金で出す事。スポーツ施設についても、同様の施策を行う事。


電車、鉄道の駅のトイレの改造費についても同じ。ある特殊法人の研修施設に、講師として行った事があります。書記としてついてきてもらった女性が、ここには車椅子用のトイレもないと怒っていた事がありました。


名作だけではなく、雑誌やエロ本の点字訳を出版する出版社にその費用を補助する事。中小企業の従業員に、大企業並みの福利厚生施設を、大企業並みの安い価格で、大企業並みの使用頻度で利用できるようにする事。オペラをゆっくり、しかも安く見られる劇場をつくる事。若いミュージシャンが他人を気にしないで練習できるスタジオを作る事。


クルーザーやヨットを、係留できる港を作る事。安く借りられるクルーザーがあればもっと良い。


テニスやプール、バレーボールやバスケットボール、スケート、サッカーやラグビー、野球、これらをもっと安く、自由に出来る施設を作る事。


様々な特色を持った図書館とインターネットを通じたそれらのネットワークが、いつでも利用できる事。


住まいの狭さを除けば、あるいは、住まいの狭さゆえに、もう既に、家の中で欲しい物は、余りないという人が多いのではないでしょうか。今、欲しい物は、自分一人では手に入らない物です。本当の意味での、社会資本の充実です。もっとも、どんなものに、美しさを感じるかは人によって違っています。


上に挙げた事柄一つ一つにについて、無駄な事、贅沢な事と感じられる方もあるでしょう。逆に、貧弱な発想だと笑っておられる方もあると思います。既に制度化されている物もあると思います。いずれにせよ、より広範囲な社会的要求に答えるために、物質的な豊かさだけではなく、人間らしく豊かな生活のために、美しさとして感じられる事のために、お金より大事なものを行政としてどう捉えていくのかが、問われているのだと思います。


勿論その際に、行政の恣意性が入り込んではいけません。行政の自己満足、自己拡張、利益誘導では意味がなくなります。やはりここでも、意志決定過程をふくめた情報公開により、住民に監視されているという緊張関係が必要です。また、行政改革ですべての問題や矛盾が解決するわけではないことも、忘れてはいけない事だと思います。


(6) 地方分権

先に挙げた事柄は、やはり都会に住む人間の考える事です。それぞれの地域で、人々が美しいと感じる事は違っており、従って必要な社会資本も違っています。それぞれの地域の行政がどうそれを捉えていくのかが重要です。


国のレベルで画一化するのではなく、財源も含めて地方の自主性が不可欠です。生活とはそういうものだからです。身近な事には関心も高く、政策を監視する住民との緊張関係も保ちやすく、施策の変更も柔軟に行えます。行政改革の第四の論点として、地方分権があげられる所以です。



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