コラム


第3回 インターネットの光と影


1.ネティズンとは

(2) ネティズンとは

インターネット上の市民という意味のネティズンという言葉があります。インターネット上に住み、インターネットを自由に往来するネットワークの上のシチズン(市民)とインターネットとを組合わせた新しい言葉です。


インターネットは誰の所有物でもありません。コンピュータとデジタル回線の組合わせによって出来上がった仮想の(バーチャル)人工的な(サイバー)、街(コンピュータ)と道路(デジタル回線)です。街には、それがどこの街であるかを示す番地(アドレス)がつけられていますが、道路はどこかの街の住人であれば通行自由です。もともとコンピュータの技術者と研究者のために作られたネットワークであったため、この街には研究所と図書館しか存在しませんでした。


当初、バカネットと陰口をたたかれたように、通信手順の厳密さを欠くこのネットワークは、ネットワーク上の情報に対して何の保障もしていません。情報伝送の単位つまりコンテナか小包のようなもの(パケット)の到着する順番が、情報発信の順番どおりでないことや中には届かないことすらあります。出した手紙がページごとにばらばらに届き、中には抜け落ちることすらあるのです。全ての責任は発信側のコンピュータと受信側のコンピュータにまかされ、情報が正しく伝わったかどうかは、コンピュータ同士で確認し合い、届いてないものは、再度発信しなおすという処理を行っているのです。


このように情報の内容を保障しないということは、一見不安定きわまりないと思われますが、通信上の制約がなくネットワークを安く作ることができるという利点をもっています。また、研究者の情報交換を中心に考えられたため、なるべく多くの人が自由に参加できるよう作られています。一定の条件、とくに通信の伝送手順(プロトコル)を守りさえすれば、誰の許可ももらわずに参加することができるのです。そのため、ネットワークは次から次へと接続され自己増殖をはじめたのです。


このように、ネットワークが幾何級数的に拡大すると、そこに商業的な施設を建てることさえ許されるようになり、先に述べた住民(ネティズン)も急速に拡大しつつあります。


しかし、この住民になるには、まずパソコンを買い、デジタル回線を引き、DSU(コンピュータを公衆回線に接続するための機器)に合うボードを買ってコンピュータを取り付け、それを動かすソフトをコンピュータに組み込む(インストール)ことが必要となります。その時、思った以上に専門知識を要求されることには驚かされます。さらに通信用のソフトを使って、どこかの街の運営主体(プロバイダー)と契約し、はじめてインターネットが使えるわけですから、住民になることそのものが初心者にとっては難しいことなのです。


その難関をのりこえても、そこで見る街の姿にがっかりする人も少なくありません。専門家や学者か、よほどものずきな住民以外、インターネット上の街々は一般住民にとって、まだそれほど魅力的なものではないのです。ホワイトハウスのホームページで、歴代のペットの写真を見ても、NASAをはじめとするホームページで、宇宙の写真を見ても、少しすればあきてきます。商店といってもそれほど多くはなく、街々に点在するCD ショップやお米屋さんの中から、自分に合いそうなものを探し出すのも初心者にとっては大変です。


少し前、アナログ回線しかなく伝送速度(bps:1秒間に情報の最低単位であるビットをどれ位送れるかという能力)が900とか2400位であったころ、インターネットといえばポルノ写真を捜すことだという実態がありました。一枚の写真を自分のコンピュータの画面(ディスプレイ)に写し出すまで、煙草一本では済まない位の時間がかかる時、人間は太陽のコロナの写真よりも、ポルノ写真の方に値打ちを見い出すのかもしれません。ビデオテープが普及しはじめるころ、ビデオデッキを売り込む電気屋さんにとって、質のいい?ポルノビデオを何本つけるかで勝負が決まったという話は有名です。インターネット上にまずポルノ写真が流通したことも、いかにも人間(動物?)くさいことであり、人間がより多く住みだすということはそんなことなのでしょう。



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